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「それはうちの仕事ではない」が戦略を止めるーー「役割の断絶」~人事は「経営戦略の実装者」になれるか③~

読了目安:8分

「それは、うちの仕事ではありません」。

ある部品メーカーで、顧客からの急な納期変更について議論していた際に、出てきた言葉だ。営業部門は「お客様の要望に応えてほしい」と生産部門に詰め寄り、生産部門は「決められた生産計画通りにつくっている」と跳ね返す。双方とも自分たちの役割を果たしているつもりだが、顧客への回答はなかなか決まらない。

この企業では、「お客様の需要変動に対応し、競争力を高める」という戦略が打ち出されていた。社員もその必要性は理解している。それなのに、なぜ現場では従来通りの仕事が続いているのだろうか。

前回は、経営層と現場の認識の違いから生じる「意味の断絶」と、それを解消する「戦略翻訳」を紹介した。今回は、戦略の意味を理解していても仕事が変わらない「役割の断絶」に焦点を当てる。

戦略が変わっても、仕事の定義は変わらない

「役割の断絶」とは、経営戦略が変わっても、各部門や社員が従来の役割認識にとどまり、戦略の実現に必要な役割へと変化していない状態を指す。

例えば、DXによる事業変革。経営層は、デジタル技術を活用してビジネスモデルや顧客への提供価値を変えたいと考えている。しかし、情報システム部門は、従来通り「社内システムを安定的に運用すること」が役割だと捉えている。デジタルを活用した新しいサービスの開発について相談されると「それは事業部門の仕事ですよね」と答える。

経営層が期待しているのは、情報システム部門が「デジタルを活用して事業や業務を革新する存在」になることだ。しかし、役割認識が変わらなければ、DXは既存システムの改善や効率化にとどまってしまう。

こうした問題が起きるのは、経営戦略が変わっても、各部門に求められる役割が十分に見直されていないからだ。部門の目標や評価基準も従来のままであれば、社員はこれまで通りの仕事を続ける。情報システム部門がシステムの安定稼働や障害対応で評価されているなら、事業変革よりも既存システムの維持に力を注ぐのは自然なことだ。

ここで問題なのは、社員が仕事をしていないことではない。むしろ、従来の役割を真面目に果たしているからこそ、変革が進まないこともある。戦略は変わった。しかし、仕事の定義は従来のまま。これが「役割の断絶」だ。

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WRITTEN BY

松井達則

株式会社ジェック 代表取締役社長

立教大学文学部卒業。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士前期課程終了。修士(経営管理学)。アメリカン・エキスプレスでの管理職経験を経て、株式会社ジェックに入社。これまでに、100社以上の組織変革・人材開発を支援。「戦略の実装」をテーマに、経営戦略を現場の行動レベルまで徹底的に落としこむコンサルティングを得意としている。2018年にコンサルティング部門を統括する取締役、2023年に代表取締役に就任。主な著書に、『メモテク』(かんき出版)、『価値を創造するチームのつくり方』(幻冬舎)等がある。

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