10月1日に発売された『AI面接の教科書ーー人と人とがより良く出会うための使い方』(株式会社PeopleX刊行)。本書は、今や採用の一端を担いつつあるAI面接の設計や活用法、実践例をまとめ、導入検討中あるいは導入間もない企業の手引きとなる一冊だ。

今回は、自身も多様な業界の人事を経験し、現在は企業人事のコンサルを行う株式会社人材研究所代表取締役の曽和利光氏に本書をベースにAI面接への考えを寄稿してもらった。

出版社 株式会社PeopleX

発売  2026/10/01

本当は活躍したかもしれない人

もしも会って話すことができたならば、採用し、入社後に活躍してくれたかもしれない人を、私たちは会う前に何人落としてきたのでしょうか。

私はこれまで三十年以上にわたって、リクルートやライフネット生命などで採用・人事の責任者を務め、二万人を超える方と面接してきました。しかし、それだけ経験を重ねても、人を見る判断を過信してはいけないと感じています。

リクルート時代、採用時の面接評価と入社後の業績評価に関係があるかを調べたことがあります。ところが、当時の分析では、両者にはっきりした相関が見られませんでした。面接で高く評価したからといって、その人の将来の活躍を十分に見通せていたとは言えなかったのです。採用する側の判断の限界が表れた、私自身の経験です。

もちろん、これは入社した人の中での比較であり、不採用者を追跡した結果ではありません。入社後の評価には、配属や育成などの環境も関わります。それでも、会って評価した人についてさえ判断に確信を持てないのなら、会わずに落とした人については、どれだけ見落としがあったのでしょうか。

書類選考を通らなかった人が、別の会社でどんな仕事をしているのかまで追うことは、あまりありません。採用の失敗というと、採った人が期待どおりに活躍しなかったケースを考えがちですが、採れたはずの人を見逃した失敗は、そもそも見えにくいのです。

人材不足が続く日本においては、私はこの「見えない取りこぼし」に目を向ける必要があると思っています。

学歴や職歴、転職回数などで候補者を絞るのは、すべての人と話す時間がないからでもあります。ところが、その時間の制約を前提につくった選考が、本当は会ってみる価値のある人まで遠ざけているとしたらどうでしょう。AI面接への私の期待は、まずここにあります。

人間だけの選考の限界をAIがサポートする

本書『AI面接の教科書――人と人がより良く出会うための使い方』は、その期待を実務の細部から考えさせる本です。AI面接と聞けば、単純に機械が質問し、点数をつけ、採否を決める姿だけを思い浮かべるかもしれません。

しかし本書は、AIを人間の判断を支える情報の基盤として位置づけています。採用の意思決定に必要な材料を、どのような対話を通じて集めるのか。導入を考える出発点が、そこに置かれています。

とくに印象に残ったのは、転職を繰り返した人への質問の仕方です。本書では、複数社での職歴を一つの質問に含め、十分な回答時間を確保したうえで、AIの追加質問によって各社での経験を掘り下げる設計が紹介されています。尋ねる順序も、選考の目的に応じて考えられています。AIの高度な機能というより、面接の基本に見えるかもしれません。しかし私は、この細かさにこそAI面接の可能性が表れていると感じました。

人間につきものの「レッテル貼り」から逃れる

「転職が多い人=ジョブホッパー」とレッテルを貼った瞬間に、私たちは一つひとつの事情を聞かなくてよい気になってしまいます。

しかし、仕事の内容が変わったのか。本人の希望と配属が合わなかったのか。会社側に変化があったのか。転職の理由をきちんと確かめれば、その人が力を発揮できる条件も見えてくるはずです。転職回数だけで将来の働き方まで想像するのは、偏った判断かもしれません。

もちろん、詳しく聞いた結果、その仕事には合わないと判断することもあるでしょう。それでも、転職回数だけを見て終わる選考と、経験の中身までじっくりと確かめた選考では、候補者に与えられるチャンスの幅が違います。

まだ実績のない「原石」を発掘することができる

AI面接によってこうした対話を広げられるなら、人材不足への対応も変わります。すでに高く評価されている人を各社で奪い合うことに加えて、まだ十分に見いだされていない人の可能性を探れるからです。

とりわけ、人がなかなか採れない中小企業や地方企業にとって、この変化は大きな意味を持つと思います。知名度や採用条件で大企業と競うのが難しくても、自社で伸びる可能性のある人を見つけられる余地があるからです。目立つ実績はまだないけれど、経験の中に工夫や粘り強さが見える。大企業や人気企業の選考では十分に目を向けられなかった、そうした「原石」と出会える可能性です。

顕在的な実績だけを求めれば、まだ機会を与えられていない人の力は見えてきません。AIとの対話を通じて、どのように考え、学び、行動してきたかを確かめられれば、中小企業も、その人が自社に合う可能性を探りやすくなるでしょう。ただし、ポテンシャルが見つかることと、入社後に活躍できることは別です。どんな仕事を任せ、どう育てるのかまで考えてこそ、その出会いが双方にとっての機会になります。

話がうまくなくても、つながることはできる

ただ、ここで問題になるのが、候補者が自分のことをうまく語れるかどうかです。仕事で工夫した経験があっても、それを面接向けのわかりやすいエピソードに組み直すのは、別の能力です。実際に何をしたのかと、その説明が流暢かどうかを、面接では混同しやすい。口頭での説明力が職務に必要なら確かめるべきですが、どの仕事でもそれを最優先に評価する理由はありません。面接が下手でも、自社の仕事はできるかもしれません。

本書が、評価したい特性と質問を対応させ、AIに一つのテーマを深掘りさせる設計を提案しているのは、この点でも重要です。答えやすい質問から入り、次第に核心へ進む。最初の回答だけではわからないことを、追加の問いで確かめる。こうした手順を設計しておけば、候補者が最初から完成された自己紹介を持ってくることに頼らずとも、その人の経験の中身や持っている特質に近づくことができます。

聞く側である面接担当者にも同じ問題があります。同じ候補者でも、面接担当者が何を聞き、どこを掘り下げるかで、得られる情報は変わります。自分では優れた質問をしたつもりでも、相手に意図が伝わっていないかもしれません。

候補者の語る力と面接官の聞く力が弱いだけで、マッチングの結果が左右されてしまう。その弱さを、AIが補えないか。私はそこに、大きな意味を感じています。

AIが質問の筋道を支え、人がその人の経験や志向を理解するための材料を得る。候補者も、自分では言葉にできていなかった強みや希望を、対話を通じて整理できるかもしれません。

こうした使い方が育てば、面接で上手に振る舞える人だけが有利になる状況を、少しずつ変えられるはずです。採用担当者の作業時間が短くなる以上に、出会える人の範囲が広がることに、私は革命的な価値を見ています。

AIに何をしてもらうのかは結局人間が決める

もちろん、会話が成立すれば、それでよいわけではありません。本書では、スカウトされた段階の候補者には、いきなり評価のための面接を行うより、会社や事業を知ってもらう対話が必要だとされています。たとえば、応募の意思が固まっていない相手に、志望動機を厳しく尋ねても、知りたいことは十分に聞けないでしょう。相手が今どこにいるのかによって、対話の目的は変わります。

この指摘は、企業がAIに何を任せるのかを考えるうえで大切です。候補者に説明を求めるばかりで、自社については何も伝えない。その状態では、候補者がAIを冷たいと感じたとしても、原因をAIという技術だけに求めることはできません。本書は、AIの口調や質問、深掘りの仕方にも企業の採用姿勢が表れると指摘します。面接担当者の代わりに話してもらう以上、相手をどう扱う会社なのかまで伝わるのです。

そして、対話の機会を増やした後に、何を評価するのかが残ります。過去に採った人に似ているかどうかを重視し続ければ、入口を広げても、結局は同じタイプの人しか通らないかもしれません。学歴や転職回数を手がかりにしていた判断を、そのままAIに移しただけでは、私がAI面接の普及に期待する「機会の拡張」には届きません。ですから、AI面接の導入に際しては、仕事に必要な条件と、慣習で置いている条件を、人間が見直す必要があります。

AIの評価を、誰が確かめるのか

一方で、私が懸念するのは、AIの評価を客観的な事実のように受け止めてしまうことです。たとえば、「協調性が低い」という評価が出たとき、本人が話した具体的な行動に基づくのか、わずかな受け答えから推測されたのかで意味は違います。整った評価文や点数だけを見て採否を決めれば、人間の先入観を、AIの評価に置き換えただけになりかねません。

また、AIが質問を続けられることと、その人の経験を十分に引き出せることは同じではありません。質問の前提が自分には当てはまらないときに、説明し直せるか。音声の認識違いが起きたときに、訂正できるか。話す速さや機器への慣れの違いが、仕事の能力の違いとして扱われていないか。こうした点は、実際の対話を見ながら確かめたいところです。

個人情報の扱いも、導入前に確認したい課題です。対話の記録を誰が閲覧し、何に利用し、いつまで保存するのか。AIの学習に使われることがあるのか。候補者が説明を求めたり、記録の誤りを訂正したりする窓口はあるのか。深く聞けるようになるほど、集めた情報をどう扱うかについて、企業の責任も重くなります。

人間はAIと補い合いながら適材適所を考える

この点で、AIが集める情報を人の判断につなぐという本書の立場は、責任の置き場所を考える手がかりになるのではないかと思います。

評価の根拠を人が確かめ、対話で取りこぼしたことがあれば聞き直せるようにする。AIとの対話が難しい人には別の機会を用意する。公平さは、AIを導入した時点で手に入る性質ではありません。誰が新たに機会を得て、誰が参加しにくくなったのかを見ながら、運用を直していく必要があります。

本書の議論を手がかりに考えると、採用の入口の先にも可能性が見えてきます。ある募集ポジションに合わなかった人でも、別の仕事なら力を発揮できるかもしれません。入社時点では見えなかった強みが、経験を積むことで育つこともあります。人の適性を一度の選考で固定せず、その時々の経験と仕事の状況を照らし合わせる。AIとの対話を、そうした動的な適材適所につなげることはできないでしょうか。

加えて、AIが付けた評価が入社後の活躍とどの程度結びついているのかも、振り返る必要があります。かつて私が人間の面接評価を検証したのと同じように、AIの評価も検証の対象にする。人間にもAIにも、判断の誤りを見つけて直す仕組みが必要なのだと思います。

あらゆる人にもっと多くのチャンスが与えられる社会へ

経歴や自己表現の巧拙で入口を閉ざされ、力を発揮する場所にたどり着けない人がいる。その状況を変えられるなら、AI面接は格差の縮小にもつながる可能性があります。むろん、面接だけで社会の格差が解消するわけではありません。それでも、自分の経験を聞いてもらえたうえで判断される機会を増やすことは、人事が取り組める具体的な一歩です。

本書の実務的な記述を読んでいると、AI面接の将来を決めるのは、AIに何ができるかだけではないと感じます。聞く手間を減らした分だけ選考を速めるのか。それとも、これまで会えなかった人の話を聞くのか。AI面接の導入を検討するとき、最初に問いたいのは「面接を何時間削減できるか」よりも、「これまで会わずに落としていた誰に、今度は会ってみるか」なのではないでしょうか。