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強い組織には「雑草」がある?~拡張生態系の知に学ぶ組織論

読了目安:7分

日本を代表するCHROが、“人事以外の専門家”の知に触れ、組織の未来を探索するシリーズ企画「CHROの問い」。 今回は、生態系から組織運営のヒントを学ぶために、YKK APの専務執行役員CHRO(兼)人事戦略本部長 西田氏が、神奈川県大磯にいる複雑系研究者・舩橋真俊先生を訪ねた。  

一般社団法人シネコカルチャーのオフィスは、東海道本線の大磯駅から歩いて20分ほどの場所にある。引き戸を開けると、天井は高く、思ったよりも奥行きがあった。木製の什器や古い装飾品が所狭しと並ぶ、時間がゆっくりと堆積したような雰囲気の空間だ。  

この建物は、もともと戦後間もない時期に建てられた電気部品工場だった。戦争で夫を亡くした女性たち――寡婦に、働ける場所を用意しようという意図でつくられたのだという。往時には、100人を超える女性たちがここで手を動かしていた。 

その空間の一角で、西田氏は一冊の分厚い本を手にしていた。『拡張生態系』。付箋がびっしりと貼られ、余白は書き込みで埋め尽くされている。著者は、複雑系研究者の舩橋真俊先生。Synecoculture(シネコカルチャー)という、生態系の力を最大限に引き出す農のあり方を提唱してきた人物である。なぜ人事のプロフェッショナルが、生態系や農業に興味を持ったのか。今回の問いは、そこから始まった。 

問い1|人は「環境に開かれた受信体」なのか

西田:先生の本を読んで、驚愕しました。私にとって2025年に読んだ本の中で、最も感銘を受けた本の一冊でした。それは単純に内容が面白かったからというより、自分が長年人事の現場で感じてきたことに、生物学的な根拠が与えられた気がしたからです。 

舩橋どのあたりが特にそう感じられましたか。 

西田人事は長い間、「人を育てる」「人を変える」という発想で制度や研修を積み重ねてきました。しかし私は、人は育てるものではなく、自ら育つ存在なのではないかという違和感を、現場で何度も覚えてきました。だからこそ、人ではなく環境を設計するという「Architect HR」(※1)にたどり着いたのですが、その感覚にひとつの根拠を与えていただいた気がしました。 

舩橋:人事の方からフィードバックをいただけるとは全く思ってなかったので、そう言っていただけるのは意外でした。 

西田先生の著作を読んだのと同じタイミングで、ダン・ブラウンの『シークレット・オブ・シークレッツ』とジャッキー・ヒギンズの『人間には12の感覚がある』という本を立て続けに読みました。3冊が異常なほど繋がっていると感じたんです。 

「脳は記憶の倉庫ではなくアンテナである」「新しい場に身を置くことで、脳という受信機が受け取れる情報の質と量が劇的に変わる」 —— この仮説と、先生の「人間は閉じた個体ではなく、環境との循環の中で立ち上がる存在」という視点が、ぴったり重なったんです。 

そこで最初に伺いたいのは、「人間は受信体である」という捉え方についてです。人間の本質は、閉じた答えを内に抱えているのではなく、環境に向かって開かれた受信体なのではないか。先生は生物学者としてこの点をどうお考えですか。 

舩橋 私は、開放系と閉鎖系を二項対立で捉えるのではなく、両方を同時に機能させることが重要だと思っています。人間には自己認識を司る「意識」があります。自我意識とは、自分と外界とを区切り、「これが自分だ」という内側の世界を保ち続ける働きです。その意味で、人間はすごく閉じていると言える。他方で、外部の情報を新しく取り入れ、学習することもできる。だから、閉じつつ開いているんです。人間

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WRITTEN BY

西田 政之

YKK AP株式会社 専務執行役員 CHRO(兼)人事戦略本部長

1987年に金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じたのを機に、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。その後、2015年にライフネット生命保険株式会社へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月に株式会社カインズ執行役員CHRO(最高人事責任者)兼 CAINZアカデミア学長に就任。2023年7月に株式会社ブレインパッド 常務執行役員CHROに就任。2025年6月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、日本CHRO協会 理事、幕別町森林組合員も務める。

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舩橋 真俊

ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチディレクター

一般社団法人シネコカルチャー代表理事、株式会社SynecO代表取締役社長。フランスのエコール・ポリテクニクにて物理学の博士号取得。複雑系・カオス理論をベースに、生態系が複雑開放系として機能するメカニズムを研究。シネコカルチャー(協生農法)の開発者として、日本・アフリカ諸国をはじめグローバルサウスで実証実験と社会実装を展開。著書『拡張生態系』(2025年)。 

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この記事で紹介した本

拡張生態系ーー生命から照らす人類・地球・科学の未来

著者:舩橋 真俊 出版社:祥伝社
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