「HR部門は30〜40%縮小し、AIエージェントを使いこなす専門職へと生まれ変わる」
4年後の組織と労働力のあり方を予測し、日本の人事担当者の間でも大きな反響を読んだレポート「HR2030」。その著者であり、世界的なHR業界アナリストであるジョシュ・バーシン氏が、「HR Frontier」に特別コラムを寄せた。「HR2030」レポートに書かれた未来を、日本企業はどのように受け止めれば良いのか。
彼によれば、日本は、他の国々で生まれつつあるAIと労働力変革の恩恵を、同じように獲得できる好位置にあるという。
私たちは先頃、ある調査結果を発表しました。テーマは、HRの次なる大きな進化になると私たちが確信しているもの、すなわち知的なエージェント型AIの台頭です。こうしたAIは、人事のあらゆるプロセスを根本から作り変える力を持っています。人事部門の役割を受け身の管理業務から、継続的でリアルタイムな労働力の最適化へと押し上げていくのです。
私たちはこの構想を「HR 2030」と呼んでいます。HR 2030が欧米市場で着実に支持を広げつつあることを、うれしく受け止めています。そして、そのいくつかの側面は、とりわけ日本の職場にこそ深く関わってくるのではないかと考えています。
1990年代以降、日本は低成長・デフレ・構造的な停滞という厄介な組み合わせと向き合い続けてきました。放置すれば、イノベーションよりも慎重さやリスク回避を促しかねない環境です。もしかしたら、これはもう古い見方かもしれませんが、それでもいまなお根強く共有されているイメージでもあります。しかし、HR 2030は、この停滞から抜け出すための
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労働力を、常時まるごと可視化する
日本の長期にわたる経済停滞は、しばしばマクロ経済の言葉で語られます。デフレ、伸び悩む生産性、人口減少といった具合です。しかし、この捉え方は一面では単純化にすぎません。最も根深い構造的な制約のひとつは、組織の内側にこそあるのです。それは、労働力をどう配分し、どう育て、どう管理するかという問題です。
生産年齢人口が減り続けるなか、これからの日本の生産性を左右するのは、人員を増やすことではありません。いまある労働力を、いかにうまく組み合わせるかです。AIを活用した人事システムなら、重要なポジションにかかる過負荷を察知し、燃え尽きのリスクを予測できます。さらに、組織全体の業務量をリアルタイムでリバランス(再配分)することも可能です。すでに人手不足が深刻な医療・製造・物流といった分野では、こうした最適化が、縮みゆく労働力を補う強力な対抗手段になるでしょう。
成長を取り戻すうえで、もうひとつ大きな足かせとなっているのが、報酬とスキル評価をめぐる透明性の乏しさです。エージェント型の人事システムは、外部の労働市場データを取り込むことで、報酬水準やスキル需要を、より継続的に、リアルタイムでベンチマークできるようになります。これは、賃金の停滞、とりわけ中堅層の賃金停滞を招いてきた情報の非対称性を和らげる一助となります。同時に、新たに身につけたスキルが自社の内外でどれだけの市場価値に変わるのかも、見えやすくなります。そうなれば、学び直し(リスキリング)への動機づけも強まっていくはずです。
日本経済を支える中小企業の多くは、高度な人事データ分析の仕組みを持っていません。しかし、AIエージェントを使えば、採用や入社後の受け入れ(オンボーディング)、コンプライアンス遵守状況の管理、一人ひとりに合わせた研修まで自動化できます。これにより、事務作業の負担を軽くしながら、必要な人材を確保しやすくなります。大企業と中小企業のあいだに横たわる生産性の差を縮めることにもつながるでしょう。
見落としてはならないのは、こうした仕組みが、これまで十分に活かされてこなかった層の労働参加を後押しできる点です。職場に復帰する女性、柔軟な働き方を求めるシニア、パートタイムで働く人たち。AIを活用した人事システムは、彼ら一人ひとりのスキルや働ける時間、希望を、需要側のニーズと動的に結びつけます。そうすることで、いまの暮らしに合った、より柔軟な働き方のモデルを支えていけるのです。
もっとも、この変革はテクノロジーだけで完結するものではありません。日本には、固有の制度的な強みがあります。長期雇用を前提とする慣行、合意を重ねて物事を決める意思決定、そして強いコンプライアンス意識です。こうした強みを、労働配分におけるより流動的でデータドリブンなアプローチと、どう両立させるか。問われるのはそこです。とりわけ報酬・昇進・配置転換といった判断において、自動化は信頼を損なうのか、それともむしろ深めるのか。それが鍵を握ります。
正しく実装されれば、人事を担うAIエージェントは、日本経済を立て直すための、静かで、しかし強力なてこになる。私たちはそう確信しています。日本の人的資本を、どう見いだし、どう配置し、どう育てるか。その全体を絶え間なく最適化することで、生産性を押し上げていけるのです。
筆者は、人的資本アドバイザリー企業 The Josh Bersin Company を率いています。本稿で取り上げた「HR 2030」のテーマについて、さらに詳しくはこちらからご覧ください。