深刻な労働力不足の中、従来の採用のあり方は今後、根本からの変容を迫られる。企業が生き残る鍵は「選ばれる」力に移行し、AIやテクノロジーを活用していく力も欠かせない。激変する労働市場において企業が人材を確保し生き残っていくための道筋について、30年以上の長きにわたり人材サービス業に携わる黒田真行氏が解き明かす。
「一強多死時代」の到来
——2030年、2040年を見据えたとき、採用に関して企業はどのような環境に立たされるでしょうか。
黒田:労働力人口の激減により、企業と労働者の立場は逆転していきます。過去100年は採用する側が強い立場にいたわけですが、働く人から選んで“いただける”会社しか労働力を確保できなくなる。「いかに良い人材を採用するか」という“上から目線”な見方ではなく、「求める人材にいかに選んでもらえるか」という、これまでとは180度パラダイムが異なる時代がやってきます。「採集」の「採」に「用」いると書いて「採用」と言いますが、その言葉自体が遺物となるでしょう。
「採用できないことが当たり前の世界がやってくる」というのが、人事・採用を取り巻く将来として、一番リアリティがあるものだと思います。しかし、これは未体験の世界なので、どの会社も横並びでじわじわと採用が難しくなると考えている人事が圧倒的に多いのが現状ですが、「人材に選ばれるごく一部の会社」と、「まったく採用できない大多数の会社」に分かれていく「一強多死」の時代が到来することになります。̶̶
——採用ができず人手不足に陥ったことによる倒産もすでに多数出てきています。
黒田:待遇を整えられない会社、地方の中小企業や不人気な業界・職種などから順番に、人を集めることが困難になってきます。2025年までは、人気や待遇が低くとも、広告を大量に出稿することでなんとか人を集めるということが、まだできていました。ところが2030年には、採用できない、人が来ない、結果として事業そのものが存続できない、場合によっては業界ごと消滅する、という現象が露わになってくると思います。
今もすでに、あまりの人手不足で満足に道路や上下水道の修理ができないといったことが起こっています。まだなんとか外国人雇用などで対応してはいますが、このまま円安が進み外国人も来てくれないとなると、いよいよ打ち手がなくなります。その時はすでに目前に迫っています。
机上の論理で
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働き手から「選ばれる」ために
——そうした中で、企業はどのような方策をとるべきでしょうか。
黒田:主眼はあくまでも「働く人に選んでもらえるかどうか」です。では働く人が一体何を基準に選ぶのか、ですが、これは時代によって変わっていくものです。
現在は、社会的な意義がある仕事なのか、その仕事自体に意味や意義がどこまであるのか、といったことが重視されるようになってきています。極端なことを言うと、儲けることばかりを考えて、粗悪品を安く仕入れて売っているような会社は、当然選んでもらえなくなります。金銭目当てで一時は人が来るとしても、長くは続かず、やがて淘汰されていくと思います。ですから、生き残るためには、その商売・事業が社会に提供する価値を企業自ら問い直す必要もあります。
——働く人の価値観の変化を捉える力も必要ですね。
黒田:そうですね。そして、働き手の価値観を捉えることや、その価値観に基づいてマッチングする場面はAIが活躍できる領域だと思います。働き手の企業の選び方や、求人サイトや転職エージェントの利用方法の変化に合わせて適材適所を生み出していく領域には、極めて大きな白地が残っています。AI事業者がそうした価値提供をしていけるかどうかも重要です。
——AIの出番としては、ほかにどのようなことが考えられるでしょうか。
黒田:AI自体を労働力として組織に組み入れていくことがまず一つありえます。反復的な仕事や単純作業などで、人がする必要のない仕事をAIが巻き取っていく。人が足りない中では、これまで人がやらなければいけないと思っていた部分でも、AIに任せていくことができるのではないか、といった考え方も必要になるでしょう。
AIが進化を続けていくと、それがなければ出会えなかった仕事に出会えるとか、よりフィットした仕事に出会える、その可能性も高まっていきます。働き手が減少する中では、マッチング精度はこれまで以上に重要となります。この仕事は自分に合っていなかった、ほかの仕事のほうが向いている、といった理由での離職・転職が減り、失敗や無駄がなくなっていくことが期待されます。
全体設計の中でのAI活用
——AIを労働力として組織に取り込むことへの注目も高まっています。
黒田:労働力としてAIを用いていくには、それがそもそも必要なのか、必要だとしたらどの業務にどのくらい、といった判断が必要になります。それは各企業が自社の事業内容や状況に応じてそれぞれ考えていかなければならないことです。AIだけではなく、あらゆる手段の中で何を選ぶか。外部委託するのか、ロボットを取り入れるのか......その選択肢の一つとしてAIが加わってきているということだと思います。
——会社全体としての人材要件設計に影響が及びますね。
黒田:人材要件設計はもちろん、評価や育成においてもAI活用の面積は広がっていくでしょう。過去半年で誰がどう頑張ったのか、どのような評価をすれば公平・妥当な評価になるのか、などです。その納得度が上がれば離職率も下がり、補充のための採用が不要になるという効果もあります。
今後は、いかに人に選んでもらい、いかに人に活躍してもらうかが、会社にとっての生命線となります。その目的達成のために適切な手段を使えているかを、急速な環境変化の中で考えていかなければなりません。AIもその手段の一つです。
労働力が減少していく中で、AIも含めたテクノロジーをどのように組み込み、どのようにして人への依存度を下げて自社の業務を回していくか。現場はもちろんのこと、そこに人事も深く関与していく必要があると考えています。