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土に学ぶ、関係性の組織論 〜個ではなく、つながりが世界を動かす〜 

読了目安:7分

日本を代表するCHROが、“人事以外の専門家”の知に触れ、組織の未来を探索するシリーズ企画「CHROの問い」 

今回は、「HR Frontier」メディアローンチを記念して、YKK APの専務執行役員CHRO(兼)人事戦略本部長 西田氏による特別寄稿を掲載。フランクフルト出張中に手に取った一冊を起点に、組織のあり方を問い直します。 


藤井一至氏の『土と生命の46億年史』は、土という最も身近な物質を通じて、私が組織について語ってきた言葉のすべてを再点検することを迫る書であった。 

土とは何か。改めて問われると、私たちは答えに窮する。藤井氏は冒頭で定義する。土とは、岩石が崩壊して生成した砂や粘土と、生物遺体に由来する腐植(落ち葉や生物の死骸が微生物に分解されて残る有機物)の混合物である、と。たったそれだけのこと。しかし、その「たったそれだけ」が、46億年の地球史において、わずか5億年前にようやく完成したというのだ。  

腐植が地球上に生まれるまで、40億年。生命と土が生まれる下ごしらえに、宇宙はそれほどの時間をかけている。私たちが組織変革に「3年では足りない、5年は必要だ」と語るのが、いかに矮小なスケールであるかを思い知らされる。 

粘土がなければ、生命は生まれなかった 

最も知的衝撃を受けたのは、第2章の記述だった。アミノ酸を含む生命の材料がそろっても、それだけでは生命は生まれない。スメクタイトと呼ばれる粘土鉱物のマイナス電気を帯びた表面に、プラスの電気を帯びたアミノ酸が集まり、濃縮されることで初めて、タンパク質の合成が可能になる。粘土がなければ、アミノ酸はただ拡散し、加水分解されて消えていく。つまり、生命の誕生は、アミノ酸という「個」の力ではなく、粘土という「場」との出会いによって実現したのだ。素材だけでは何も起こらない。素材を引き寄せ、濃縮し、関係を結ばせる場があってはじめて、新しい何かが生まれる。 

これは組織論そのものではないか。優秀な人材を集めるだけでは、組織は何も生み出さない。彼ら彼女らが出会い、引き寄せ合い、関係を結ぶ「場」がなければ、能力は拡散して消えていく。HRが設計すべきは、優秀な個の獲得だけではなく、優秀な個が関係性を結ぶ「粘土」のような場なのだ。 

「土壌を耕す」ことの、より深い意味 

私はかねてより、自律連携型組織のあり方を語る際、森の比喩を用いてきた。地上では一本一本の木が自律して立っているが、地中では菌根菌(植物の根と共生し、栄養分のやりとりを行う菌類)のネットワークを通じて互いに連携しあっている—これが理想的な組織体系だ、と。 

藤井氏の本は、この比喩の解像度を一段引き上げてくれた。とりわけ興味深かったのは、菌根菌に大きく二つのタイプがあるという事実だ。一つはアーバスキュラー菌根菌。草本でも樹木でも、陸上植物の8割が共生している最も普遍的なタイプで、菌糸が植物の根の細胞内にまで侵入し、糖分とリン・窒素を細胞レベルで直接交換する、いわば「密着型」の共生者である。もう一つは外生菌根菌。マツタケやシイタケの仲間を含み、主に樹木の根の表面を菌糸で包み込むようにして共生する「コーティング型」のパートナーで、岩石を溶かしてリンを取り出す驚くべき能力を持つ。藤井氏はこれを「岩を食べるキノコ」と表現する。 

地中で何が起きているのか。植物は光合成で得た糖分をこれらの菌根菌に渡し、菌根菌は土壌中に菌糸を張りめぐらせて植物単独では届かないリンや窒素を集め、植物に届ける。一方の力では得られないものを、互いに注文をつけることで排除されない関係。藤井氏は「双方通行のラーメンの名店と常連客のようだ」と記す。 

しかし、この共生は牧歌的なものではない。植物は菌根菌を「ハッキング」する寄生植物ストライガに襲われ、年間1兆円を超える農業被害をもたらす。共生菌のふりをして根に侵入する病原菌もいる。共生関係に「タダ乗り」して搾取するだけの存在もいる。共生と寄生のあいだの境界は、驚くほど薄い。それでも5億年にわたってこの関係が続いてきたのは、共生のメリットがリスクを上回り続けてきたからだ。「土の中での競合は地下で今も続いている」。この一文に、私は深い示唆を受けた。 

組織もまた同じだろう。自律連携を標榜しても、関係性の中には寄生して搾取する存在が必ず混じる。きれいごとでは済まない地下の攻防があってなお、共生のメリットが上回るように土壌を整え続けることが、HRの本来の仕事である。 

そして、土そのものもまた、生きている。微生物が有機酸を出して岩石を溶かし、ミミズがフンをして団粒構造を作り、菌糸が土の粒子を編み込む。土は、無数の生物の働きが折り重なって「創発」する集合体である。藤井氏はこれを超個体と呼ぶ。個々の微生物の足し算ではなく、相互作用そのものが土の本質なの

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WRITTEN BY

西田 政之

YKK AP株式会社 専務執行役員 CHRO(兼)人事戦略本部長

1987年に金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じたのを機に、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。その後、2015年にライフネット生命保険株式会社へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月に株式会社カインズ執行役員CHRO(最高人事責任者)兼 CAINZアカデミア学長に就任。2023年7月に株式会社ブレインパッド 常務執行役員CHROに就任。2025年6月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、日本CHRO協会 理事、幕別町森林組合員も務める。

この執筆者の記事一覧

この記事で紹介した本

土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る

著者:藤井 一至 出版社:講談社
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