ソフトバンク株式会社 常務執行役員 兼CHRO コーポレート統括の源田泰之氏に、「AIは組織の未来や人々の働き方をどう激変させるのか?」という質問を投げかけるインタビュー企画。後編では、ソフトバンク流採用術や、源田氏のこれまでのユニークなキャリア、そして意外な情報インプット術まで尋ねた。
前編はこちらから↓
AIで面接官を育てる
「AI面接」という言葉が今ほど世を賑わせる遥か以前、2017年の段階でソフトバンクはエントリーシート(ES)の評価にAIを導入し、業界に大きな衝撃を与えた。その後、テクノロジーの進化を経て、現在の取り組みはどう深化しているのだろうか。
「現在はオンライン面接の内容をAIが要約し、学生の事実情報、またはその情報をベースとした学生の特徴を記載してくれるAIツールが現場で非常に重宝されています。これにより、面接官はメモを取るという作業から解放され、目の前の候補者との対話に100%集中できるようになりました。同時に、候補者がリラックスして本来の力を発揮できる環境作りにもAIを役立てています。具体的には、模擬面接の様子をAIで分析し、『表情が硬い』『相槌が少ない』『面接官側が喋りすぎている』など細かいフィードバックを面接官に返すことで、『AIが面接官を育てる』という取り組みも行いました」
もっとも、AIの恩恵を享受している
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「ESの是非については古くから議論がありますが、たとえ形式としてのESが減ったとしても、『初期スクリーニングをどう行うか』という問いは残ります。当社では、事前に設定した質問への回答を動画で提出してもらう『動画面接』を5年以上前から導入していますが、コストや正確性の面でより優れた手法があれば、柔軟に切り替えていく方針です。テクノロジーがさらに進化すれば、書類の文字情報だけでは見えてこない、その人の持つ熱量や個性さえも客観的に測定できるようになると考えています」
では、将来的にすべての面接をAIに委ねる日は来るのだろうか。そんな素朴な疑問を投げかけてみると、源田氏は「見極め」と「アトラクト(魅力付け)」の切り分けを強調した。
「候補者のスキルや適性を見極めること自体は、AIの進化によって完全自動化が可能になるかもしれません。しかし、面接には『この人と、この会社で共に働きたい』と思ってもらうための『アトラクト』という、極めて重要な役割があります。これは、最後まで人間にしかできない仕事です。また、当社は新卒を年間400人ほど採用していますが、あえて多種多様なタイプの面接官を配置することで、合格者の顔ぶれに自然と多様性が生まれるようにしています。AIによる判定が画一化しないよう、人間による多角的なジャッジをAIが強力にサポートする。このバランスこそがベストだと考えています」
採用後の育成や人事評価、給与決定といった領域にも、AI活用の可能性は広がっているが、源田氏は「それらの領域には、依然として人間の介在価値が非常に高い」と冷静に分析する。
「評価の正当性をどこに求めるかは、非常に繊細な問題です。仮に、AIが会議の発言やメール、個々の貢献度をすべてデータ化し、客観的で完璧な分析を出したとしても、社員にとって真に重要なのは、『なぜその評価になったのか』という納得感です。本人の成長につなげるためには、上司が時間をかけて向き合い、深いフィードバックを行うプロセスが不可欠。そこはあえて効率化せず、じっくりと時間をかけるべき領域だと考えています」
AIがどれほど進化しても「人事の役割は残る」と考える理由。それは、人間が感情を持つ生き物だからに他ならない。「『誰かに話を聞いてほしい』『自分の頑張りを認めてほしい』という根源的な欲求に応えるための『ケア』や『対話』は、これからも必要とされ続けるでしょう。だからこそ、人事はAIを使い倒し、AIが完璧にこなせる領域と、人間にしかできない役割を見定めなければなりません。ガバナンスを整え、学習ツールを提供し、コンテストなどを通じて、『まずはやってみよう』という動機付けを全方位で行う。AIがない時代に後戻りすることはありません。今この瞬間の試行錯誤のスピードが、将来的に取り返しのつかない差を生むと確信しています」
「営業から人事」という異色のキャリア
人事専門誌には一通り目を通し、トレンドを把握するのを欠かさない一方で、一番大事なインプット源は「人との対話」だという。それも、人事同士のコミュニティに留まらない。起業家や科学者など、異分野のプロフェッショナルと積極的に交流することで学んでいるという。
「私が事務局を務める『孫正義育英財団』には、9歳から20代までの『天才』たちが集まっています。専門は、AIはもちろん、物理学、数学、脳科学と多岐にわたります。例えば、ハーバードで研究室を持つ卒業生が『蚊のDNA解析から人類の歴史を紐解く』といった話を、実に楽しそうに語ってくれる。彼らと接し、『人間とは何か』『脳の仕組みはどうなっているのか』といった、アカデミックかつ本質的な問いに触れることは、人事として組織や人間を洞察する上で、何物にも代えがたい刺激になっています」
多忙な日々を過ごしながら、人事という領域を超えた広範な好奇心を持ち続ける背景には、源田氏の「異色のキャリア」に一端があるのかもしれない。1998年にJ-フォン(当時)へ入社した彼のスタートは、最前線の営業職だった。転機が訪れたのは、入社から10年が経った頃だ。当時の自分にとっては「青天の霹靂」だったと振り返る。
「孫(正義娘さんから『販売スタッフを1万人増やせ』という強烈な号令がかかったのが、すべての始まりでした。当初は営業推進の立場で販売スタッフの育成を担当していましたが、やがて全社の教育、そして人材開発そのものを手がけることになりました。その延長線上で、社内研修制度『ソフトバンクユニバーシティ』の立ち上げに携わり、さらには後継者育成の『ソフトバンクアカデミア』や新規事業提案制度『ソフトバンクイノベンチャー』へと、任される領域が次々と広がっていきました。気づけば、採用、報酬、HRBPと人事のあらゆる機能を担うようになり、この世界にどっぷりと浸かっていたのです」
越境を繰り返すことで築かれたキャリア。かつての営業経験は、現在の人事トップとしての判断にどう影響しているのか。
「自分の頑張りが売上や利益にどう直結するのか。自分はコスト以上の価値を会社に提供できているのか。若いうちにこうしたシビアな経済感覚を叩き込まれたことは、非常に大きな財産です。また、外の世界を知っていることは、社内の論理に閉じこもりがちな人事に、健全な客観性をもたらしてくれます」
労務管理の色彩が強かった当時の人事の世界で、こういう発想は珍しかっただろう。その後、「人事」の役割は、どう変わってきたのか。
「以前の人事は守りの『管理』が中心だったかもしれません。しかし今は、『事業を推進する主体』として、いかに社員の成長を最大化させるかが役割の核になっています。人は困難な壁を乗り越える実体験を通じてこそ、最も成長します。教育コンテンツを詰め込むことよりも、適切な『経験の場』を設計し、サポートすることに、私は一貫した興味があります」
未来の才能を支援する財団の活動もまた、彼にとっては壮大な「学びの場」の設計なのだろう。「財団を通じて若い才能が世界的な成果を上げる姿を見るのは、何にも代えがたい喜びです。『未来の社会に対し、何ができるか』。会社や財団を通じて、少しでも未来を良くすることに貢献できていると実感する瞬間、最も達成感を覚えます」そんな源田氏に、個人としてこれから挑みたいことを問うた。「一つは、ソフトバンクがAIのリーディングカンパニーとして進化していくプロセスを、人の側面から支え抜くこと。私たちは今、日本のデータセンター、日本のGPU、日本のデータを用いた『国産AI基盤』の構築を国家戦略レベルで重要視しています。医療、防衛、インフラといった機密データを守り、活用していく中心的な役割を担うことには、大きなやりがいを感じます。これはもはや義務感に近い。転職を一度も考えたことがないのは、この会社が常に変化し続け、全く飽きることがないからです」そしてもう一つ、大切にしている個人的な儀式がある。
「自分の氏神様ってご存知ですか?住んでいる地域を守る神様のことですが、私は氏神様にお参りする際、お願いごとではなく『誓い』を立てるようにしています。『自分はこうなる』『これを成し遂げる』と言葉に出す、いわゆる言霊(ことだま)の力は、自分自身を動かす大きな原動力になります。その上で、私が最後に立ち戻るのは『身近な人を大切にする』という原点です。家族や友人、親しい人たちに対して誠実であること。仕事も結局は誰かの役に立つためにあるものです。AIがどれほど進化し、社会の仕組みが変わろうとも、この誠実さを忘れないようにしたいのです」